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この人に聞きたい 「あなたが人生に絶望しても、人生はあなたに絶望しない」 千代田国際クリニック院長・医学博士 永田勝太郎さん

今回は永田先生が院長を務める千代田国際クリニックに伺い、インタビューさせていただきました。難病で寝たきりになった経験をお持ちの先生は、ストレス病や痛みに苦しむ患者さんに寄り添い、豊かな人生をつくるためにじっくり時間をかけて患者さんと向き合う診療を行っていらっしゃいます。


永田勝太郎さん

医学を志す

私は千葉県の銚子で生まれ、東京の大学に進学しました。当時は学園紛争の真っ只中で、私は「自分とはなんだろう、人間とはなんだろう」ということを考えながら大学生活を送っていました。人間をよく知るための学問は医学だという考えに至り、それまで通っていた大学を中退して医学の道に進むことにしました。

ところが、医科大学での学びはカエルの解剖のようなことばかりで、哲学的ではなく技術論が中心だったので愕然としました。そんな中、たまたま鍼を学ぶ機会があり、麻酔を使用せずに鍼だけで痛みを抑えて行う骨折手術を目の当たりにして、鍼や東洋医学の素晴らしさを知りました。

これがきっかけとなって、私は痛みの治療をテーマに取り組むようになりました。東洋医学や民間療法、合理性があって患者さんが良くなるものなら何でも取り組もうという考えのもとで、患者さんを「病を持った人間」として総合的に診ていく〝全人的医療〟を行っています。

副作用で死の淵に

医科大学卒業後は東京の大学病院に勤務していましたが、勢力争いに巻き込まれて部下たちと病院を追われ、会津の病院に移りました。そこでは心療内科を始めたり敷地内で湧いた温泉を活用して温泉療法を行ったりしましたが、その後病院は倒産、別の大学病院に勤務することになりました。

毎日仕事に追われ人間関係に悩んだ私は疲労困憊し、ある日突然脚の筋肉に激痛が走って倒れてしまいました。担当した医師からは炎症を鎮めるためにステロイドホルモン剤の使用を勧められ、自分としては体が弱っているので不安に思ったものの、言われるままに治療してもらいました。

3日ほどで痛みは消えましたが、足先から神経・骨・筋肉を溶かすような副作用が現われ、一週間後には寝たきり状態になってしまいました。その後も病状は悪くなる一方で、ただベッドに寝て天井を見ているしかなく、主治医からは「もう一生歩けません、車いすも無理です。治療方法はありません」とまで言われました。

当時私は50歳で弟子が数人いましたが一人、二人と辞めていきました。中には後ろ足で砂を蹴るように去った人もいて、それが一番悲しかったですね。

奇跡の生還

私は会津の病院にいた頃から、精神科医のヴィクトール・フランクル先生の教えを受けにオーストリアを数十回と訪ねていました。フランクル先生はユダヤ人であったために第二次世界大戦中にアウシュヴィッツ強制収容所に捕らわれ、その体験を著書にまとめられています。

収容所では、自分が餓死寸前でも弱った人にパンを差し出せる人と、獣のように人のパンを奪う人に分かれることに気づき、その違いを「どんなささやかなことでも良いので〝生きる意味〟を心の中に持っているかどうか」であると分析されています。

先生は私が倒れる前年に他界されていましたが、死を意識した私はフランクル先生の奥様に手紙を書きました。奥様は驚きながらもこのような返事をくださいました。

「あなたが死ぬような病気になってしまったなんて、とても信じられない。わたしは医師ではないからあなたに何もしてあげられない。でも、生前フランクルがいつも私に言っていた言葉を贈ります。『人間誰しも心の中に絶望(アウシュヴィッツ)を持っている。しかしあなたが人生に絶望しても、人生はあなたに絶望しない。あなたを待っている誰かや何かがある限り、あなたは生き延びることができる』」

私はこの手紙を毎日、何百回も読み返しました。温かい先生のまなざしや奥様のしぐさが彷彿されましたね。ちょうどこの頃、たくさんの学生が見舞いに来て励ましてくれたり、何人かの医師が「先生の医療を勉強したい」と言ってくれたりしたのです…

...続きは遊和32号でご覧ください。

永田勝太郎さん

PROFILE

永田 勝太郎(ながた かつたろう)

1948年、千葉県生まれ。慶應義塾大学経済学部中退後、福島県立医科大学卒業。千葉大学、北九州市立小倉病院、東邦大学、浜松医科大学附属病院心療内科科長、日本薬科大学統合医療教育センター長・教授を経て、WHO心身医学・精神薬理学教授、(公財)国際全人医療研究所代表理事、リヒテンシュタイン国際学術大学院大学ヴィクトール・フランクル講座名誉教授、日本実存療法学会理事長、日本疼痛心身医学会理事長。
専門は、全人的医療学、実存分析学、心身医学、慢性疼痛学、起立性低血圧、東洋医学。
著者に『心身症の診断と治療』(診断と治療社)、『実存カウンセリング』(駿河台出版社)、『体質・症状・病気で選ぶ漢方薬の手引き』(小学館)、『痛み治療の人間学』(朝日新聞出版)、共著に『現代の起立性低血圧』(日本医学館)などがある。

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